横溝 匠
Takumi Yokomizo
現在行なっている研究
陸域と水域の境界に生きる植物の潮汐環境適応
植物はおもに陸上に生育しますが、河川や海などの水域に進出している種も存在します。アブラナ科の草本植物オオバタネツケバナは、川沿いの非潮汐環境と潮汐環境の両方に定着しており、潮汐環境の個体は満潮時に完全に水没します。私は、根や花粉の形質と遺伝子発現リズムに着目して、潮汐環境での冠水・干出ストレスに適応する機構を明らかにしたいと思っています。本研究によって、陸域と水域の境界に生きる植物が潮汐サイクルによる時間的異質性を備えた水環境に定着するメカニズムを解明したいと考えています。
マングローブスズにおける概潮汐リズムの遺伝基盤
陸生昆虫のマングローブスズは、干潮時にマングローブ林の地面で活動し、満潮時に樹上で休息をとるという活動リズムを示すことが知られています。この活動リズムは、潮汐サイクルに同調した体内時計である概潮汐時計によってつくられていると考えられていますが、その遺伝基盤はほとんどわかっていません。私は、潮汐サイクルに同調した遺伝子の発現パターンをゲノムワイドに解析することで、概潮汐リズムの発振を担う遺伝子を探索しようとしています。
これまでの研究
トランスクリプトーム解析による塩水応答機構の探索
淡水巻貝における汽水域への進出には塩水への適応を遂げることが必要です。私はチリメンカワニナの淡水域集団の塩水耐性が塩水曝露によって可塑的に高まることを示しました。また、トランスクリプトーム解析によって塩水応答に関わる候補遺伝子群を発見しました。本研究は塩水適応における可塑性の重要性と分子レベルの動態を明らかにしたものです(Yokomizo and Takahashi, 2020)。
概潮汐リズムの獲得による潮汐環境適応の実証
生物は進化の歴史のなかで自律的に時間をはかる機能(体内時計)を獲得しました。行動や生理機能を環境と同調させることは、生物が高いパフォーマンスを発揮するために重要です。河川では、潮汐サイクルによる環境変動が下流ほど強く、上流と下流の間に環境サイクルの異質性がみられます。このことから、下流の潮汐環境では、概日リズムに加えて、潮汐に同調したリズム(概潮汐リズム)をもつことが適応的になると考えられます。私は、河川性巻貝のチリメンカワニナにおいて、概潮汐リズムの発現と可塑性による内在リズムの変化が潮汐環境への適応に重要であることを見出しました(Yokomizo and Takahashi 2022, Yokomizo and Takahashi 2024)。